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琥珀色に染まるとき
第22章 涙は朝雨のように

「どうぞ」
琥珀色の中に沈むルビーを思わせる鮮やかなチェリーが、宝石のように輝く。ビジュー、別名アンバードリーム。差し出されたグラスを嬉しそうに見つめる佐伯は、そっと手を添えた。
冷えて曇ったグラスに薄黄色が映え、極寒の地アラスカの氷原を思わせる。それに視線を落とした藤堂は、灰皿で煙草を揉み消し、グラスを手に取った。
二人同時に口元へ運び、一口飲んで笑みを浮かべる。佐伯が口を開いた。
「美味しいわ。材料それぞれの特徴を保ちながら、強い個性は抑えられているし、きちんと馴染んでる」
「それはよかった」
「アラスカは偽りのない心。じゃあ、これにもメッセージが込められているのかしら」
「知りたいですか?」
「もう……焦らさないで教えなさいよ」
呆れ顔で催促してくる彼女に優しく微笑みかけ、景仁はゆっくりと言葉を紡いだ。
「視線を感じてください。大切な人の視線を」
動きを止めてこちらを見つめる彼女を横目に、藤堂は相変わらず無言でグラスを傾ける。店内を彩るジャズの音が、三人の間を静かに流れた。
「……いつも感じているわ。私を見守る優しい視線をね」
穏やかな笑みを浮かべた彼女の隣で、藤堂がわずかに身じろぎしたのを景仁は見逃さない。
ビジューをまた一口飲んだ佐伯は、あらたまった顔つきで言った。
「私ね、あの人のこと、まだ引きずってるのよ」
驚かずに頷いてみせると、鋭い視線がよこされる。
「反応薄いわね。もしかして誰かから聞いて知ってた?」
「いいえ、なんとなくそんな気がしていただけです」
「なんでもお見通しなのね」
「理香さんはいまだに謎だらけですよ。他人のことは知りたがるのに、ご自分のことになると秘密主義なんですから」
彼女は聞こえていないふりをし、隣の男に疑いの目を向けた。睨まれた藤堂は、涼しい顔でアラスカを愉しんでいる。

