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琥珀色に染まるとき
第22章 涙は朝雨のように

 ふと、藤堂が呟いた。

「社長の涙を見たのは久しぶりだ。五年ぶりくらいかな」
「俺は初めて見たよ」
「人に弱さを見せたがらないからな。頑固で見栄張り、おまけに素直じゃない」
「うむ。たしかに似てるか」
「…………」

 煙草を咥えていた藤堂は、煙を吐きながら苦笑した。

「いや、彼女は心を許した人間にはもろさを見せてくれるから可愛いもんだろ。社長のほうが十年年長く生きている分、壁は硬いし、厚い。壊すのは厄介だな」

 藤堂は煙草を灰皿のふちに置くと、腕を組んで椅子の背もたれに身体を預け、なにかを懐かしむようにバックバーを見上げた。

「あの人は、心に傷を負っても独りで生きている。誰も寄せつけないように鎧をかぶってな」
「だからお前が見守ってきたんだろ」
「らしくないことを……」
「いや、十分お前らしいよ。お節介だからな」

 その言葉に、藤堂はまた苦笑した。

 景仁は、次の一杯のためにロックグラスを用意する。バランタイン十七年を取ろうと目をやると、静かな声が聞こえた。

「社長は、俺との関係を断ち切ろうとしているんだよ」

 ボトルに伸ばしかけていた手を止め、なにも取らずに視線を戻す。そこには、やるせない表情で煙を吐く男の姿があった。

「あの人がたぶん人生で最も荒れていた時期に警護を担当して、そろそろ六年になる」
「その頃だったか、理香さんがタツさんと別れたの。起業したとたんに離婚だもんな」

 湿っぽい微笑が返ってきた。

「俺ともう一人の警護員が担当したんだが、なぜか俺にだけ理不尽な態度を取りやがる。当然事情を知らない俺は、なんだこのわがままな女と思いながら仕事したね。やり手女若社長だかなんだか知らないけどな、って」

 当時に浸るその切れ長の目が、切なげに細められる。

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