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琥珀色に染まるとき
第22章 涙は朝雨のように

「容赦ないな」

 苦笑する男にとどめを刺す。

「主従関係が壊れたらどうすればいいって、そんなもん、ただの男と女になるだけだろう。お前さっきなにを聞いてたんだよ。あれが俺と涼子への激励だと思って聞いてたのか? その裏にある理香さんの心の声を聞き逃すな。お前は本当に、鋭いのか鈍いのかわからん奴だな。これだから堅物は困るよ」

 しばらくの沈黙のあと、藤堂はおかしそうに喉を鳴らし始めた。

「お前、呑気に笑ってる場合か。理香さんが先手を打ってくれたんだ。恥をかかせるなよ」
「そういうところは昔から変わらないな、西嶋。女には甘く、男には信じられないくらい厳しいところが。紳士の仮面を被った鬼め」
「いつも偉そうに人に説教垂れてる奴には、これくらいじゃ足りないぞ」

 声を出して笑った藤堂は、勘弁してくれ、と言ってウイスキーを呷り、ゆっくりと愛でるようにグラスを揺らす。煙草の白い煙がそれに合わせてゆらゆらと立ちのぼるのを眺め、景仁はふと口を開いた。

「Don't think, feel it」
「なんだいきなり」

 藤堂は怪訝な表情でグラスを置き、煙草を吸うと、ため息のごとく煙を吐き出した。

「恋に臆病な堅物秘書への激励だ。ああ、もう秘書はクビになるのか」
「ふざけてるだろう、お前」
「さあな」

 とぼけるなよ、と呆れ顔で笑った藤堂が、煙草の火を灰皿で揉み消しながら思い出したように言う。

「昨日、誰かさんの女にそんなアドバイスをしたばかりだった」
「そりゃどうも。榊さんから聞いたよ」

 苦笑混じりに答えると、互いに示し合わせたようにそのまま口を閉じた。静かな空気を破ったのは、グラスを取り最後の一口を飲み干した藤堂だった。

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