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琥珀色に染まるとき
第22章 涙は朝雨のように

中央の席に促すと、実耶は座りにくそうに椅子に腰かけた。きっと完全に床から足が浮いていることだろう。
「よく来てくれたね」
「お店の名前で、もしかしたらと思って……すごく緊張したけど」
「ふふ。なににする?」
「お姉ちゃんが好きだったお酒」
「ザ・マッカランかな」
「……ううん。もう一つのほう。オフィシャルボトルが出てるんでしょ?」
「お、よく知ってるね」
微笑みを返し、景仁はバックバーの中央部分から、クレイゲラキ十三年を抜き取った。
「飲み方はどうしようか」
「ストレートで」
姉に似て、強いらしい。十一年前には高校生だった女の子が、そうやって酒を愉しむようになったのだと思うと、ほほえましくなった。
「どうぞ」
差し出されたテイスティング・グラスの琥珀色を見つめ、実耶は頬をほころばせた。さっそくそれを口に含む。
「うん。やっぱりちょっと、スペイサイドっぽくないね」
「ははは、そいつはスペイサイドの異端児だから」
「アイラ好きの人が好きそう」
「ああ、そうだね」
穏やかな笑みを交わすと、ふと、実耶は目線を手元に落とした。
「あの人とは、あれから……」
「うん。なにも変わらないよ」
静かに答えれば、彼女はわずかに唇を噛んだ。
「……私、あの人にひどいこと言っちゃいました。お兄さんにも失礼なことをしました。そのことがずっと頭から離れなくて、苦しかったです」
俯いたままの、実耶の固い声が続く。
「だけど、やっぱりあの人との接し方がわからない。本音を言えば、もう会いたくない。嫌いとか恨みとかそういうことじゃなくて、怖いんです。あの人に負の気持ちをぶつけたくなっちゃう自分が」
「うん。そう思うのは自然なことかもしれないね。でも、彼女は誰からも責められるべきではないと思うよ」

