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琥珀色に染まるとき
第22章 涙は朝雨のように

 不意に、その小さな顔がこちらを向いた。

「……どうして、あの人なんですか?」
「なにも知らずに好きになった。それだけだった」

 実耶が切なげに眉を寄せるさまを見守りながら、穏やかな声で語る。真耶の妹に告げるのは酷かもしれない。しかし、彼女の瞳は繕われた言葉など望んでいない。

「背負うものが多いことは承知している。それでもこの道を選んだのは、自分自身が彼女を必要としているとわかったからだよ」

 実耶が伏し目がちにぽつりと、そうですか、と呟いた。

「傷つけてしまってすまない」

 顔を上げた彼女はわずかに首を横に振ったあと、自身を納得させるように深く息を吐き、頷いた。

「私がお姉ちゃんのためにできるのは、お兄さんの幸せを願うことです。お兄さんの幸せがあの人と一緒にいることなら、黙って見送ります。これが、私のできる最大限の配慮です」

 こちらを見据え、あらたまって語った実耶の瞳が、今にもしずくを落としそうに揺れる。

「だったら、その精一杯の強がりと優しさを無言で受け止めるのが、俺の最大限の配慮かな」
「え、ぜんぜん無言じゃないじゃん。言っちゃってるし」

 昔の口調に戻った彼女は、その目から大粒の涙をこぼしながら、震える唇で笑う。濡れる頬を小さな手で拭い、すがるような視線をよこした。

「お兄さん。一つ聞いていい?」
「どうぞ」
「お姉ちゃんのことは、もう過去?」

 その声とまなざしは、真耶そのものだった。実耶の中にいる彼女の面影を感じながら、景仁は静かに答えた。

「真耶を失ってから俺の時間は止まったままだった。それが、あるときから急速に動き出したんだ」
「……あの人を好きになったとき?」

 投げかけられた質問に、穏やかな笑みを返す。

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