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琥珀色に染まるとき
第22章 涙は朝雨のように

「過去は後ろにしか残らないものだけど、決して置いていかれた時間でも、忘れられた時間でもないよ。途切れることなく未来に繋がっているから」
「……っ」
「ごめん。答えになってないかな」

 彼女は再び泣きそうな顔になり、かぶりを振った。

「私も、未来に進んでいいのかな……」

 まるで誰かに遠慮しているような、不安げな声だった。その瞬間、なぜ彼女が真耶の面影を強く感じさせるのか合点がいった。

「このまま自分だけ前に進んでいいのかと疑問を持ちながら、そうやって真耶にそっくりな格好をして、真耶のかわりに、真耶の人生を歩もうとしなくていいんだよ」

 はっとした表情を浮かべた実耶は、口を開いたが、無言のままこちらを凝視して動かない。

「実耶の人生は、実耶のものだ。人の世話ばかり焼いていないで、もっと自分の幸せを考えなさい」

 諭すように告げれば、彼女はこみ上げる感情を我慢するようにその顔をくしゃくしゃに歪めた。

「それ……お姉ちゃんがよく言ってた。人のこと、言えないくせにね……っ」

 彼女の目から溢れ出したそれは、哀しみとも後悔とも違う、まっさらな涙だった。


 時間をかけてクレイゲラキを飲み干した実耶は、会計を済ませて立ち上がった。

「じゃあ、行くね。あの……ごめんなさい、お元気で、って……あの人にも……」
「ありがとう。伝えておくよ」

 優しく返すと、安堵したのか実耶は小さく息を吐いた。

「忘れないで……お姉ちゃんのこと」
「ああ。忘れないよ」
「約束ね。またね」

 約束ね――真耶の口癖と、太陽のような笑顔を残して、実耶は去っていく。景仁は遠ざかるその後ろ姿を見送りながら、最後に見た真耶の姿に重ねてみた。


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