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琥珀色に染まるとき
第22章 涙は朝雨のように

 警戒心を含んだその冷ややかな表情の裏には、若干の困惑が見てとれる。それを正面から受け止め、景仁は毅然たる態度で答えた。

「涼子さんとは、結婚を前提にお付き合いさせていただいております」
「…………」

 涼子の父は、品よく並んだ双眼を一瞬だけ見開いたが、その表情はすぐにもとに戻る。互いに沈黙を続けると、ナースステーションから注がれてくる視線に、“場違い”という忠告が込められ始めた。

「ここではなんですから、ひとまず病室へ向かいましょう。こちらへ」

 景仁の言葉でその異様な空気に気づいた彼は、ああ、と一言返事をし、促されるまま歩き出した。
 いくつもの扉が連なる静かな廊下を進む。涼子の父は、一定の距離を保ちながらあとをついてくる。なにげなく立ち止まり振り向いてみると、まるでこちらを監視するような視線を送られていた。

「あの……私は涼子さんにつきまとったりしていませんから、どうかご安心を」
「は?」
「お付き合いしているのは本当ですので」
「ああ、いや、疑うような真似をして申し訳ない」

 唐突な宣言に面食らった様子の彼は、ほかにもなにか言いたげだったが、互いに言葉を交わさぬまま、ある個室の前にたどりついた。

「私は飲み物を買ってきますので、失礼します」

 軽く一礼して立ち去ろうとしたところで、後ろで低い声が聞こえた。

「気を遣わせてすまないね」
「いいえ」

 スライド扉を開けて中へ入っていくその背中を見送り、病室を離れようと一歩踏み出したときだった。

「涼子……っ」

 焦ったようなその声に、景仁は思わず振り返り、閉まる寸前の扉に手をかけた。

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