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琥珀色に染まるとき
第22章 涙は朝雨のように

「おとう、さん……」

 わずかな隙間から漏れてきた涼子の声は、驚きに上擦ってはいるものの、ふだんのそれとさして変わらない。症状が悪化したのかと一瞬凍りついた心臓が、彼女の声によりそれを否定されたとたん、再び急速に動き出す。

「……っ」

 きつくまぶたを結び、中にいる二人に聞こえないよう深く息を吐き出した。会話を聞くつもりはないが、扉に添えた手を離すことができない。

「大丈夫なのか? なぜ、こんな怪我を」
「お父さん。……忙しいのに、ごめんなさい」
「そんなことはどうでもいい……!」

 苦しげに抑えられた叫びのあと、短い沈黙が追い、絞り出すような声が続く。

「どうでもいいんだよ、そんなことは。病院から連絡があったとき、私は心配で、心配で……お前になにかあったらと考えるだけで……っ」
「おとう、さん」
「すまない、涼子。すまなかった、今までずっと。すまなかった」

 震えた言葉が途切れ、嗚咽混じりになる。

「私が、悪かった……お前を一人にして……本当に、すまなかっ……」

 すると、透きとおった心地のよい声が返された。

「お父さん。来てくれて、ありがとう」

 優しげなその涙声で、涼子が父親にどんな顔を向けているかわかる。一人微笑を浮かべた景仁は、扉をそっと閉めるとその場をあとにした。

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