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琥珀色に染まるとき
第22章 涙は朝雨のように

しかし、その懸念はすぐに覆された。
「娘が太鼓判をおしていたよ。お父さんも一度来てみればわかると」
「涼子が……」
「今度ゆっくり時間が取れるときに伺わせてもらうとするよ。結婚を許すのはそれからかな」
「心しておきます」
固く返事をすると、その横顔が嘲笑を浮かべる。
「まあしかし、親として失格な私が偉そうに言えることではないがね」
「私はそうは思いません。どんな関係であろうと、親子の絆は他人には計り知れないものですから」
遠い地に住む両親を想いながら穏やかに否定すると、そうか、と思いのほか柔らかな声が返された。
「娘があんなに優しい顔で笑うことを、私は知らなかった。涼子が君と出会わなければ、私はあの子の泣き顔しか見られなかったかもしれない」
「いえ。実は、私は……」
景仁は、涼子との過去の結びつきを打ち明けようと思った。このまま言わずに、関係を進めることはできない。
「娘から聞いたよ」
放たれたその一言と、眉間のしわを深くしたその厳格な横顔が、すべてを物語っていた。
「君は、それでも娘と一緒になろうと言うんだな?」
「はい。過去のことは関係なく、私は彼女の本質を好きになってしまったので、気持ちが揺らぐことはありません」
はっきりと言いきれば、なんだか清々しい気分になった。だが、涼子の父は表情を変えない。
「正直に言うが」
そう低く発された前置きに、自ずと背筋が伸びる。
「私にとって大切なのは、君との過去より涼子のこれからの幸せだ。涼子が幸せになれるのなら相手は誰だっていいが、涼子が選んだのは君だった。あの生真面目な娘の選んだ男が、君なんだ。それで十分なのだよ」

