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琥珀色に染まるとき
第23章 いつか無色透明の愛が


第二十三章 いつか無色透明の愛が




 一月三十日月曜日、午後八時。

 身体の表面に負った痛みはいつか癒える。しかし、心の傷はふとした瞬間によみがえり、宿主を胸の内から鋭利な刃物で突き刺す。幾度となく経験してきたその痛みに、今回ばかりは勝てないかもしれない。


「はい。これがチケットね」

 女社長の鋭い目が、弧を描いた。

「お手数かけてすみません。自分でするより、佐伯さんにお願いしたほうが安心なので」
「いいのよ。女の一人旅は大歓迎だし、そのために会社を起ち上げたんだから」
「ありがとうございます」
「だけど、西嶋くんは知ってるの? このこと」
「いえ」

 薄暗いシックな店内に、自身の心境を表しているかのような物哀しいジャズボーカルが静かに流れる。

「黙って行くつもりなのね」
「あ、でも、私の実家に帰ると言ってあるので」
「私の実家、ねえ」

 西嶋の店のものとは異なる、見慣れないバーカウンターの上に提供されたウイスキーに目をやりながら、涼子は隣で首をかしげる佐伯に小さく返事をした。

「まあいいわ、とにかく飲みましょう。あらためて完治おめでとう。お顔に傷が残らなくて本当によかったわ」

 沈む夕日が煌めくカクテルの女王を軽く持ち上げ、佐伯は高貴な笑みを浮かべた。

「ありがとうございます。佐伯さんもお仕事お疲れさまでした」

 同じようにグラスを上げて微笑み返し、口元に運ぶ。久しぶりの芳香に満たされる。
 二人ほぼ同時にグラスから唇を離したとき、佐伯が盛大にため息をついた。

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