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琥珀色に染まるとき
第23章 いつか無色透明の愛が

「じゃあ、負けたら……」
「大丈夫よ。負けないから」
「え?」
「だって、そうなるように誘導してしまえばいいじゃない」
「……それってインチキじゃないですか」

 正直に言えば、うふふ、と笑われた。

「賭け事には必勝法、つまりインチキがつきものでしょう。幸せな運命は自分で掴み取るものなのよ」

 少女のような笑みを浮かべ、佐伯は続ける。

「ねえ、涼子ちゃん。相手が彼じゃなかったらよかったと思う?」

 不意打ちの質問に答えられずに佐伯の顔を凝視すると、彼女はしばらくこちらを観察したあと、ふっと噴き出した。

「彼以外の男なんて考えたこともないって顔ね。あなたのそんな顔、初めて見たかも」

 図星をつかれ押し黙れば、また笑われた。優雅にマンハッタンを口にして、彼女は言った。

「どうして一人旅の行き先を、彼の生まれ故郷にしたのかしら」
「…………」
「愛しているからでしょう?」

 その鋭利な視線は、身動きが取れず固まっていた心に突き刺さった。そうしてできた亀裂に、急にふっと微笑んだ彼女の優しさが染みこんでくる。

「愚問ね」

 苦笑混じりに言った彼女は、こう続けた。

「自分で自分をがんじがらめにしてしまわないで。視野が狭まると、二人だけの世界に閉じこもってしまうのよ。いつも一緒にいたら、見えるのは相手のことばかりで自分のことが見えなくなる。自分自身を省みることができなくなったら、人との関わり合いだってうまくいかないと思うの」

 そう言うと、佐伯はまたバックバーに視線を上げた。なにかを思い出すようなその遠い目の先には、なにが見えているのだろうか。

「これからもあなたはいろんな人に出会うと思うけれど、それを恐れないでほしいの。出会いの数だけ、自分を見つめ直すチャンスがあるから」
「……それがたとえ、永遠の別れや苦痛を伴う出会いだったとしても?」

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