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琥珀色に染まるとき
第23章 いつか無色透明の愛が

一瞬の、間があった。佐伯は薄く笑む。
「残酷かもしれないけど、そうね。必ずしも幸福なことばかりじゃないわ。いいことも悪いことも、意志にかかわらず身に降りかかるすべてが運命だから。それが幸せな出会いでも、不幸な出会いでも、ひとつの運命に変わりはない。でも、それを幸せな運命に変えることができると、私は信じてる」
過去のことを知っているのか――それこそ愚問だ、と涼子は思った。知っていようがいまいが、彼女が背中を押してくれていることに変わりはない。
「ありがとうございます。……私も、そう信じたい」
手元に目を落としたまま呟くと、肘で軽くつつかれた。西嶋の店に初めて行った日のことを彷彿させるその行為に、思わず口元がほころぶ。それに気づいた佐伯が、声を弾ませる。
「ほらね、やっぱり笑ったほうが美人さん。女の武器は涙じゃなくて笑顔だからね。泣きたいときは思いきり泣いて、そのあとは清々しいお顔で笑うの。傷ついたときの感情を心に居座らせちゃだめ。時間はかかるけれど、いつかきっと追い出せるときが来るわ」
「はい」
「最後にいいこと教えてあげる」
「インチキなことですか?」
あはは、と、ひかえめに声に出して笑った佐伯は、身体を寄せて囁いた。
「ひとりになるって、ひとりじゃないからできることなのよ」
魔法の呪文を唱えているような、包みこむようなその声が、いつまでも耳に残った。

