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琥珀色に染まるとき
第23章 いつか無色透明の愛が

広いフロアの一部がカフェスペースとして仕切られており、人々が談笑を愉しんでいる。飛行機で多少の睡眠をとったとはいえ、やはり移動の疲れは否めないので、ひとまずカフェで休憩することにした。
購入したスコーンとコーヒー――紅茶にしようかと思っていたのに、つい癖で頼んでしまった――を手に、テーブル席につく。すぐ近くのテーブルでは、一組の年配夫婦が仲睦まじく会話をしている。
涼子は一人、静かにブラックコーヒーを飲む。
「おいし……」
疎外感のようなものを覚えた瞬間に、ふと思い出すのは西嶋のことだった。
――半月前に退院してから、涼子は日々の大半を西嶋のマンションで過ごした。本調子でない身体での一人暮らしは危険だし不便だから、仕事に復帰するまでの間だけでも、と彼が提案してくれたのだ。
日中は家にいる西嶋に身のまわりのことをしてもらい、夜には彼の香りがするベッドで一人眠りについた。彼と毎日のように顔を合わせるのは初めてで戸惑ったが、献身的とも徹底的ともいえる支えの甲斐あって、心身ともに穏やかな生活を送ることができたのだった。
涼子は、ジャムをつけたスコーンをかじった。外はさくさく、中はふわりとして美味しい。
日本は日曜の夜、西嶋の店は定休日だ。彼は今、どうしているだろう。彼の生まれ育った地で、遠い海の向こうにいる彼と同じ時間を、起きて過ごしている。それなのに、寂しさが胸に広がる。
父が心配しているから、一週間ほど実家に帰る――そう嘘をついておいたので、彼から電話をかけてくることはないだろうし、マメにメールをするタイプでもないから、数日くらい連絡が取れなくてもばれることはない。
佐伯に打ち明けた時点で藤堂の耳に入っていることは確実だが、なんとなく、彼は黙っていてくれているような気がする。

