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琥珀色に染まるとき
第23章 いつか無色透明の愛が

スコーンとコーヒーを味わい、館内をひと回りしようと椅子から立ち上がった。
広い館内には、二十以上の展示室に八千点余りの所蔵品が収められているという。ヨーロッパの美術品や、陶磁、武具、銀器、彫刻など、コレクションは実に多彩で、一つひとつ丁寧に見ていたら閉館までに間に合いそうにない。
手元のパンフレットを見て目星をつけながら、大理石の床を歩く。吹き抜けの大空間に、様々な芸術品が展示されている。
さらに、吹き抜けを取り囲むようにして展示室が設けられている。グラスゴー出身の建築家マッキントッシュの家具や、画家集団グラスゴー・ボーイズの作品も見られた。
奥の階段を上がれば、絵画コレクションの展示室が並ぶ。レンブラントなどオランダの巨匠、フランス印象派のモネやルノワールなど、名だたる作品が飾られている。
中でも、ダリの『十字架の聖ヨハネのキリスト』はこの美術館で特に有名な絵画だ。船に乗った漁師のいる湖の上を黄金色の雲が覆い、十字架にはりつけにされたキリストが暗黒の空からそれを見下ろす――そんな風景を、斜め上という極端な角度から描いている。
視点が変わると見えるものも違ってくるのだろうかと、涼子は静寂の中でしばらく微動だにせず、その絵を見つめ続けた。
中央ホールを挟んだ反対側の博物部門には、アジアゾウの剥製を始めとする自然史のコレクションや、完全修復された第二次世界大戦当時の飛行機など、さきほどのフロアとは別世界のような空間が広がっていた。
ひととおり鑑賞を愉しんだあと、気に入った絵画をもう一度見ようと中央ホールに戻ったとき、突然、パイプオルガンの演奏が始まった。思わず顔を上げ、その格調高い音楽に聴き入る。
煌びやかで壮麗なる空間に残響する大きな音は、特に強い信仰心を持っていなくとも、ある種の神々しさを感じさせる。まるでホール全体がひとつの楽器で、その音に全身を包まれるようだった。

