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琥珀色に染まるとき
第23章 いつか無色透明の愛が

「はい、ぜひ。私のカメラでも撮っていいですか?」

 “Absolutely!”と答えた彼女と並び、互いの携帯で撮影したところで、紹介された店の名前と行き方を教えてもらい、彼女とはそこで別れることになった。

「あなたと会えてよかったわ。気をつけてね。チェリオ!」

 笑って手を振る女性に手を振り返し、涼子は美術館をあとにした。

 午後五時には日が落ち、あたりはすっかり暗くなっていた。
 通りを歩きながら、彼女の上品な話し方を思い出す。こちらが聞きとりやすいように発音してくれていたようで、ほとんど訛っていないようにも聞こえたが、かといって教養をひけらかすような嫌味があるわけでもなかった。
 今さらながら、名前くらい聞いておけばよかったと後悔する。誰かと出会い、その縁を繋げるには、自らが進んでそれを望み、自ら動き出さなければいけないのだ。


 通りに面した四階建てビルの一階に、深緑と茶色の情趣ある外観の店を見つけた。

「ここね」

 妙な緊張感と高揚感を覚えつつ、年季の入った両開きの木製扉に手をかける。ゆっくり引いて中へ足を踏み入れると、壁や床、バーカウンターにスツールと、木のぬくもりを感じさせる茶色基調の内装が目に入った。テーブル席やソファー席もあり、店内は庶民的な賑わいを見せている。

 カウンターの奥にいる店主らしき男が、“Hello”と迎えてくれる。ちょうど彼の前に位置するスツールがあいていたので、了解を得てそこに腰かけた。
 バックバーには、数多くのウイスキーボトルが並ぶ。

「なににする?」
「じゃあ、まずはオーヘントッシャンを」

 Auchentoshan――ゲール語で“野原の片隅”という意味を持つ、グラスゴーに最も近い場所に立地する蒸溜所だ。ここで生み出されるウイスキーは、軽やかでライトな味わいが特徴で、都会的かつスタイリッシュなシングルモルトとして知られる。

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