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琥珀色に染まるとき
第23章 いつか無色透明の愛が

 ボトルに記された“105”とは、アルコール度数を示す百五プルーフの意味で、英国の場合は度数六十パーセントを指す。通常は四十から四十五度に調整されるのだから、その高さは言うまでもない。
 グラスに注がれた液体の、濃いピートを漂わす深い琥珀色がそれを物語っている。ストレートで飲んでみてから、少しだけ加水してもらおうかと涼子は考えた。

 手に取って眺めると、まるで誘惑されているような、挑発されているような気分になる。鼻腔をくすぐる香りは甘く、スパイシーな中にもシェリーとドライフルーツ、アーモンドを感じさせる。
 舌を刺激する味はリッチでパワフル、後口はドライでオーキー。しかしながら、度数のわりには飲み口がスムースで、温かみとスモーキーな余韻が長く残るまろやかなウイスキーだった。
 臆すことなく試してみることは、自らの好みを知る好機なのだとあらためて感じる。

 三杯目を悩んだ末、店主に委ねることにした。

「ピーティーで、めずらしい銘柄はありますか」
「少し待っててね」

 言い残した彼は店の奥に消え、一つのボトルを抱えながら戻ってきた。

「ピート・チムニーだよ」

 初めて見る“PEAT CHIMNEY”と記されたラベルをものめずらしげに眺めていると、瓶詰業者――インディペンデントボトラーのウィームス社が出しているブレンデッドモルトだと店主は説明してくれた。

 注がれた美しい琥珀色。グラスを手に取り、口元に寄せる。
 海を思わせる塩っぽさ、スモーキーさの中に、アプリコットとかすかなオレンジの皮の香り。一口飲むと、エスプレッソや黒糖の味わいから、徐々にフレッシュなりんごを感じる。残り香は甘くスモーキーで、だんだん柔らかくなる。その余韻を涼子はじっくりと愉しんだ。

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