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琥珀色に染まるとき
第23章 いつか無色透明の愛が

それが済むと、デスクの隅に置いておいたデリカテッセンの袋を広げ、中から材料を取り出した。バゲットに好きなように具を挟んでいき、完成したサンドイッチを頬張る。
「うん、うん」
思いのほか美味しかった。
簡素な夕食を片手に、椅子の下にある旅行バッグの中を探って携帯を手に取る。電源を入れようと思ったが、そのままバッグに戻した。ホテルには無線LANが繋がっているし、いざとなれば連絡方法などいくらでもある。
物理的に一人になっても実感が湧きづらいのは、こうして目に見えないネットワークで繋がることができるからだろう。
だが、いつでも容易に繋ぎ合わせることのできる見えない糸は、切れてその繋がりを失ってしまっても、それさえ目には見えないのだ。たとえ相手との溝が深まっていたとしても、それに気づくことはできない。
なぜなら、そこにはぬくもりがない。顔を合わせ、声を聞き、肌に触れ合ったときの感触にはとうてい及びはしない。人間同士の関わり合いに最も必要なのは、手を繋ぐようにぬくもりを共有すること――時代遅れかもしれないが、涼子はそう信じている。
少しだけ、一人という脇道にそれてみたくなったのは事実だ。今回の事件で、心が少しだけ疲れてしまった。
それでも旅の行き先にスコットランドの地を選んだのは、どこにいても彼と繋がっていたかったから。彼を、身近に感じたかったから。
静かな部屋に、小さなため息が落ちた。

