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琥珀色に染まるとき
第23章 いつか無色透明の愛が

北を目指して車を走らせ続け、約四時間。雨の降る荒涼とした景色の中をひたすら走り、スコットランド最大のウイスキー産地、スペイサイド地区に入った。そうして、昼頃にようやくたどりついたのは、山間に囲まれる小さな村――クレイゲラキだ。
木々の中に隠れるようにして佇む、白壁のホテルに着いた。雨はやんでいるが、またすぐに降り出すだろう。
ホテルに荷物を預け、再び車に乗った涼子は、すぐ近くにあるクレイゲラキ蒸溜所に向かった。ここは一般公開されていないため、見学は受けつけていない。大きな窓の隙間から見えるポットスチルを外から眺めるにとどまった。
来た道を戻る途中で脇道に入り、狭い空き地に車を停めた。おそらくすぐそばに、有名な鋳鉄製のアーチ橋があるはずだ。
車を降りて、ひとけのない小道を白い息を吐きながら歩く。寂しげな木々に迎えられ、しばらくすると両脇に立派な塔が見えた。その間を伸びる橋の長さは、五十メートルほどはあるだろうか。
橋の上を進み、下を見てみると、スペイ川が流れている。スペイサイド・モルトの水の源だ。ウイスキーだけでなくサーモンでも有名な川で、春から秋にかけては英国紳士がフィッシングのために多く訪れるという。
中央付近まで来たところで、涼子は立ち止まった。
この橋を渡りきば、向こう岸に行けるのだろうか。対岸には小高い山があり、道がどこに続いているかわからない。
涼子は、川の流れを見下ろした。あの蒸溜所は、この川沿いのどこかに存在している。遠くに目をやったが、あたりに見えるのはなにもない村の侘しい冬景色だった。
もう一度、川に視線を落とす。ふと目に入った川辺の砂利道に降りてみようと思い、橋を戻って脇から伸びる短い坂を下った。
開放的な静寂の空間に通り過ぎる、川の音と風の音。そこに地面を踏みしめる音が重なる。

