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琥珀色に染まるとき
第23章 いつか無色透明の愛が

橋から遠ざかったところで、振り返ってみる。下から見る橋の鉄製部分は、見事なアーチを描いていた。
「綺麗……」
呟くと、不意に、冷たいしずくがまぶたに落ちた。それに気づいて上着のフードを被れば、すぐに雨が降り始めた。その場に立ちつくし、冷たい風に晒されながら、濡れゆく橋をぼんやりと見つめる。
陰鬱なはずの雨景色に、不思議と心が休まっていくのを自覚する。流れる空気に恐怖を感じないからだろうか。
容赦なく叩きつける雨に怯えていた過去の自分は、ここにはいない。もう傘の下に自分を隠す必要はない。
――もう、逃げも隠れもしない。
降りしきる雨に打たれながら、涼子は強く決意した。
身体が冷えてきたので車に戻ろうと思い、もと来た道を帰る。坂を上りきったところでわずかに不安を感じ、なにげなく振り返って橋の向こうを見た。
そこには、誰もいない。なにもない。独りよがりの寄り道は、行き止まりに達したのだ。
もう一度前を向いた涼子の目に映ったのは、雨に暗く沈む村の風景。それでも必ず雨は再び止み、やがて遠くの空には薄日が差すだろう。
車に乗ると、涼子は地図を確認した。太陽には手が届かないけれど、あの蒸溜所はすぐ近くにある。遠くから眺めようとするのではなく、自らの足で訪れたらいい。なにをためらうことがあるのだろう。
この村にたどりついてから、無意識に彼女の面影を追ってばかりいる。どこに行っても、どんなに抗っても、見えない引力に吸い寄せられてしまう。
だったら、自分から会いにいこうじゃないか――。

