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琥珀色に染まるとき
第23章 いつか無色透明の愛が

***
翌日は、日の出とともに――といっても午前八時頃だが――行動を開始した。外はあいかわらずの曇天だったが、これがスコットランドらしい気候なのだと開き直れば、出発時に雨や雪が降っていないだけマシだと思えた。
気分はよかった。
昨日、意を決して訪れたザ・マッカラン蒸溜所では、スタッフに気さくに対応してもらい試飲など愉しませてもらえたし、ホテルに帰ってからも、館内にある有名なバーでスタッフに勧めてもらったザ・マッカランとクレイゲラキを堪能できた。
意外だったのは、華やかな甘さが特徴のスペイサイドモルトにしては、クレイゲラキにスモーキーさを感じたことだった。アイラモルト好きの涼子には、なぜだかそれが無性に嬉しかった。
また、新しい扉を開くことができた。些細なことだが、涼子にとっては、自分一人だけでそれを成し遂げたということが重要だった。
グラスゴーに戻り、同じ宿泊先に帰ると、少しだけ休んでからまた外に出た。
歩いて西に向かう。見覚えのある道を辿り、ここに来て初めて訪れたバーを目指す。宿に隣接する建物内にあるパブではなく、わざわざ徒歩十五分以上の店に行こうと思ったのは、少しでも馴染みを感じられる心の拠り所を求めたからだ。
「あれ、君は……」
「また来てしまいました」
「歓迎するよ。どうぞ」
笑顔の店主に促され、あいているカウンター席に腰かけた。昼下がりの店内には数人の客がおり、それぞれが静かな時間を過ごしている。
その中のテーブル席に、この間も来ていた日本人の常連客がいた。会釈をすると笑みを返してくれる。ふと、彼の前に座っている女性がこちらに振り向いた。
「あっ」
美術館でこの店を教えてくれた婦人だ。揃ってこちらを見る二人の顔を見た瞬間、涼子は過去にその光景を見たことがあるような不思議な感覚に襲われた。

