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琥珀色に染まるとき
第24章 THE NEARNESS OF YOU

「……景仁さん?」
その声に我にかえると、腕の中にいる涼子に見つめられていた。
「ん、悪い」
「なに考えてるの?」
「ああ、うん。……この間、実耶が店に来たよ」
「……そう」
小さくこぼしたその唇を指でなぞり、ほんのり染まる頬を撫でる。向けられるのは少しの困惑と、照れたような目。それを眺めていれば、自然と穏やかな気分になれる。
「彼女も本当はわかっていたよ。涼子を責めるのは間違いだってこと」
しなやかに曲線を描く背を優しく撫でながら諭す。涼子は、うん、と一言呟いてしばらく沈黙したあと、静かに言った。
「頭ではわかっていても、心がどうしようもなかったんだと思う。気づいたでしょう? 実耶さん、私を見てすごく戸惑ってた。どうしたらいいのかわからないって顔してた。だから、あの反応は仕方なかったのよ」
「あのとき、なにを言われたんだ」
「……忘れたわ」
「下手だなあ、嘘が」
「もういいの」
ごまかすように、胸に顔をうずめてくる。
「あなたが一緒にいてくれようとしていたのは知ってたし、それでも私の気持ちを尊重しようと葛藤してるのも気づいてた。でもあのときは、一人で耐えなきゃいけない気がしたの」
その声色は穏やかで、少しだけ震えていた。
「なあ、涼子」
「ん?」
「お前、無理してるだろ」
「してない」
「お前が饒舌なときは、たいがい自分に言い聞かせてる」
急に顔を上げた彼女が、違う、と小さく漏らした。
嘘をつけない彼女の、見え透いた嘘。どれほど平静を装っていても、実耶との遭遇に彼女が傷ついていないわけがない。そんなことは、わかっていたのに……。

