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琥珀色に染まるとき
第24章 THE NEARNESS OF YOU

***

 つい一時間ほど前、グラスゴー空港を出発したときに降っていた雨はやんでいた。めずらしく、アイラ島の空には晴れ間が覗いている。
 その下に広がる、どこまでも続く荒野の景色の中、真っ直ぐに伸びる田舎道をひたすらに車で駆けていく。

 隣でハンドルを握る暗髪の美しい女は、その白い手をシフトノブに添えた。黒いセーターの袖からちらりと見えるのは、誕生日にプレゼントしたブレスレットだ。
 丁寧なクラッチ操作、なめらかでスピーディーなギアチェンジ。車はスムーズに加速する。やはりアイラ空港でレンタカーを借りて正解だったと、涼子の巧みな運転に感心しながら景仁は思った。

「うまいな。安心して助手席に乗っていられるよ」
「あなたほどじゃないわ」

 謙遜する彼女はまんざらでもなさそうで、照れたような笑みを浮かべる横顔がそれを証明している。

 総面積約六百平方キロメートルの島内には、八つの蒸溜所がある。涼子の好きなカリラやボウモア、ラガヴーリン、景仁が常飲しているアードベッグもこの地に蒸溜所を構えている。
 バスやタクシーという選択肢もある中でレンタカーを選んだのは、自由度を優先してのことだ。当然のように運転手役を務めようとした景仁を制した涼子は、『私が運転する』と自ら進んで言い出したのだった。

 車は、島の中心部に位置するボウモアを目指して走り続ける。着飾った街の喧騒も、背の高い建物の威圧感も、なにもない。
 ウイスキーのために存在する静かな聖地に降り立ち、ドライブを愉しむその愛しい横顔を眺め、心地のいい揺れに身を任せる。なんとも穏やかな時間である。

 空港から十分ほど走ったところにボウモアの街はあった。メインストリートに差しかかるとゆるやかな下り坂になり、両側に白壁の建物が並ぶ道の先には青い海を望むことができる。今日は空も青く、文句なしの風景である。

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