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琥珀色に染まるとき
第24章 THE NEARNESS OF YOU

晴れた空に白壁と黒屋根のコントラストが美しく映え、パゴダと呼ばれる仏塔に似た独特な形の換気塔を持つ乾燥棟――キルンが目を引く。
ボウモア蒸溜所に着いたのは、製造工程の見学ツアーが始まる十五時より少し前だった。予約こそしていなかったものの、ビジターセンターのスタッフに尋ねると参加させてもらえることになった。ハイシーズンでないのが幸いしたのだろう。
「よかったな」
声をかけてやると、彼女は柔らかな笑みを返した。
「本当に親切な人ばかりなのね」
その表情はいきいきとし、瞳はまるできらきらと輝いているようだ。
モルトウイスキー製造工程の基本的な流れは、製麦、糖化、発酵、蒸溜、熟成である。大麦を発芽させて麦芽――モルトを作り、それを粉砕したものに湯を加え、甘い麦ジュースのような麦汁を濾(こ)しとる。そこにイースト菌を加えてアルコール度数七~八パーセントほどのもろみを作り、ポットスチルで二回蒸溜をおこなうと、無色透明のスピリッツができる。その“ニュースピリッツ”に加水をして度数を落とし、樽で貯蔵、熟成させるのだ。
若い女性ガイドの案内で、五名ほどの外国人客とともに、まずはモルティングルームを見学する。ボウモアは、伝統的な手法であるフロアモルティングを続けている数少ない蒸溜所のひ一つである。
フロアモルティングという言葉どおり、一同はコンクリートの床一面に広がる麦の絨毯を目の当たりにした。寛容なことに、その上を歩くのも触るのも自由らしい。案内を聞いた涼子がさっそく、敷き詰められた大麦の前にしゃがみこみ、遠慮がちに手のひらにすくっている。その隣にしゃがんで見てみると、たしかに芽と根が成長していた。

