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琥珀色に染まるとき
第24章 THE NEARNESS OF YOU

 ちらりと隣を見下ろすと、スコットランド訛りが残る女性ガイドの説明を聞き逃すまいと息をひそめる、涼子の真剣な横顔がある。何度も頷きながら話に聞き入り、聞き取れないときにはわずかに首をかしげる。小声で説明してやると、ありがとう、とでも言いたげな柔らかい笑みをよこす。
 景仁にとっては、蒸溜工程と同じくらい、彼女の様子は興味深い。

 続いての工程は、熟成。蒸溜したての原酒に加水して度数を六十三~六十四パーセントに落としてから、オーク材の樽に詰めておこなう。加水をするのは、この度数のときに最も樽材成分がウイスキーの中に溶け出しやすいからだ。染み出した樽材成分によって、ニュースピリッツは次第に琥珀色に変わり、香りは深く複雑になり、味わいもまろやかになっていく。
 
 そういうわけで最後に貯蔵庫を見学したのだが、残念ながら景仁たちの参加した見学ツアーには、第一貯蔵庫の特別な樽から試飲可能なコースは含まれていなかった。マニア向けのツアーを事前予約するといいらしい。
 ボウモア蒸溜所の敷地内には三棟の貯蔵庫があるが、中でも第一貯蔵庫は海抜ゼロメートルに位置する。ゲール語で“大いなる岩礁”という意味を持つボウモア――その第一貯蔵庫の外壁は海に面している。岩盤を削って建てられたため、天候によっては外壁を波しぶきが容赦なく打つという。そのせいか、貯蔵庫内にはかすかに潮の香りが漂うのだ。

 ニュースピリッツが入った瓶を掲げた女性ガイドが、始めはこんなにも透明なのだと説明すると、涼子が感慨深げにため息を漏らした。
 この生まれたてのウイスキーが、アイラの潮風と波に晒される閉鎖的空間の中で静かな眠りつき、樽と対話しながら、長い年月を経て“アイラモルトの女王”となる。そう考えると、人間の人生も似たようなものかもしれないと思った。

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