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琥珀色に染まるとき
第24章 THE NEARNESS OF YOU

蒸溜所を去る頃には十七時を過ぎ、あたりは暗くなっていた。
ホテルに戻ると、館内にあるレストランで夕食を済ませた。アイラ生牡蠣のレモン添えや、ハギス――羊の内臓を羊の胃袋に詰めて茹でたスコットランドの伝統料理――のアイラウイスキーソースがけなど、この地ならではの料理も堪能でき、見た目とは裏腹の美味しさに涼子も満足したようだ。
その後はやはり、併設されているバーでウイスキーを愉しむことにした。アイラ島で、ウイスキーの品揃えが一番だといわれる名所である。壁一面に並ぶボトルの数々を眺める涼子の瞳は、例のごとく輝いている。
品揃えだけでいえば、日本にもここに劣らない店はあるが、比較するのはナンセンスだ。どこかへ旅をするとき、その地の特色や名物を自分のよく知る地のそれと比べるのではなく、ありのまま素直に愉しめるかどうかが重要なのだから。
景仁は、アードベッグの“LORD OF THE ISLES”(ロード・オブ・ジ・アイルズ)二十五年を注文した。一九七四年、一九七五年の樽からヴァッティングされた二〇〇一年のボトルで、アイラモルトらしい個性はあるが、引っかかりのない香味で非常に飲みやすい一杯だ。
涼子が注文したのは、カリラ二十五年。その熟成年数を物語るように、カリラ独特のスモーキーさと薬っぽさはおとなしい。豊かな黄金色が透過するグラスを傾け、エレガントな味わいを堪能するたび、彼女はとろけそうなほどに頬をほころばせた。
それから一時間ほど経った頃、三杯目のウイスキーを飲み干した涼子がグラスから唇を離し、不意にこちらを見た。
「景仁さん。それ何杯目?」
「さあ、何杯目だったかな」
曖昧に答えて最後の一口を呷ると、彼女は目を丸くする。

