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琥珀色に染まるとき
第24章 THE NEARNESS OF YOU

 建物に灯された暖かな光が、揺れる海面に橙色の道を作っている。それはまるで海を照らす月の光のようで、二人はしばらくその幻想的な景色に見入った。
 波音の向こうからは、ゴー、という低い音が聞こえてくる。

「こんな時間まで稼働してるんだな」
「ピートを焚いているのかしら。かすかに香りがするもの」
「そうだな。また飲みたくなってきたよ」
「明日飲めるわよ、一日中」
「……明日か」

 視線を落とし、景仁は彼女の肩を抱く左手に力を込めた。吸いこまれるような深い色の海を見つめていると、得体の知れない恐怖にも似た感情がこみ上げてくるのは、生きたいと思う人間の本能のせいだろうか。

「今ここで落ちて沖に流されたら、溺死か凍死するかもしれない。そしたらもう、俺に明日はないな」
「なによ……怖いこと言わないで」

 その怪訝そうな声には軽蔑すら孕んでいるようで、思わず苦笑が漏れる。

「ただの例え話さ。当たり前に来ると思っている明日が、来ないかもしれないってこと」

 静かに語りかけると、薄闇の中で涼子が静かに息を呑む気配がした。その頭の中に浮かぶものはなんなのか。
 片足を上げて海に踏み出すそぶりをしてみると、驚いた彼女に強く身体を抱きしめられた。

「例え話じゃ済まなくなるわよ」
「はは、大丈夫だよ」

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