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琥珀色に染まるとき
第24章 THE NEARNESS OF YOU

 足を地面に戻し、防波堤に迫る冥闇を見下ろす。

「一歩先は真っ暗な闇かもしれない。だがそこにはきっと道標があるし、進み続ければ光を見つけられるはずだ」

 そうして、海面を伸びる橙色の灯火を視線でたどり、景仁は前を見据えた。

「お前が近くにいると、ただの外灯も希望の光に見えるよ」
「なにそれ……」
「涼子。お前が生きていてくれて、よかった」

 それは、今まで口に出すのを意図的に避けてきた言葉だった。彼女の生の裏には常に、真耶の死が隠れていたから。
 しかし、いつかその想いを自らの口から涼子に伝えることが、彼女の人生に一筋の光をもたらすと景仁は信じていた。

「涼子。もう……」

――もう、辞めていいんだよ。自由になっていいんだよ。

 衝動的に喉まで出かかった言葉を呑みこむ。容易に口に出してしまったら、彼女のこれまでの覚悟と生き様を軽視するようで失礼だと思った。
 腕の中で震えるその細い身体を、強く、優しく、抱きしめる。

「涼子。ありがとう」
「……っ、ふ、うぅ……」

――ありがとう。真耶の死に、俺の孤独に、寄り添ってくれて。

 景仁の胸に頭をこすりつけるようにして一度だけ深く頷いたきり、涼子はなにも言わなかった。
 小刻みに肩を震わせる彼女の顔色は窺えない。だが、暗い寒空の下、そのぬくもりがそばにあるだけで十分だった。


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