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琥珀色に染まるとき
第4章 虚しい戯れのあとは

 考えるのは、ベッドではしたなく乱れていた名も知らぬ女のことではない。ホテルにいる間、どうにか思い浮かべようと何度試みても、ぼんやりとよぎったところを目の前で喘ぐ女に邪魔され、すぐにかき消されてしまった。
 昨夜、といってもほんの数時間前に、常連客である佐伯と藤堂の付き添いとして現れたボディーガードの女。背筋の伸びた綺麗な立ち姿が印象的だった。座ってもその姿勢が崩れることはなかった。

 涼子――心の中で、その名を呟いてみる。
 客の情報として名前とその人物の特徴を覚えることはあっても、ここまで強烈に印象を残した女は初めてだ。

 その形貌を思い返す。地味だがきちんと手入れされた黒いパンツスーツを着こなす、すらりとした体型。背は、日本人の成人女性の平均身長ほどある佐伯よりも頭半分くらい高かった。
 ぱりっとした襟の真白いシャツからは色白な首が伸び、袖から覗く綺麗な手で上品にグラスを傾ける――。
 スーツの下に隠しきれない色香が、そこには漂っていた。当の本人は、そのただならぬ色気を自身の武器とすることを嫌っているのか、それとも単にその魅力に気づいていないのか、媚びるような仕草はいっさい見せなかった。

 そんなことに気を取られていたので、正直なところその顔はよく覚えていない。というより、彼女の持つ艶めいた空気が容姿の特徴に勝ったというほうが正しいかもしれない。
 何度か目が合ったものの、あまり長くは見ていられなかった。その視線が、今までほかの多くの女から向けられたそれとはなにかが違っていたからだ。性的な好奇心や媚びを含まない、真っ直ぐなまなざしだった。直視することができないほどの。

 らしくない考え事をしているせいでなんとも形容しがたい気分になり、景仁は深いため息をついた。

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