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琥珀色に染まるとき
第4章 虚しい戯れのあとは

静かな路地を抜けると大きな通りに出る。ここまで来ると人通りも多くなり、夜とは異なる騒々しさを感じる。
たいして歩いてもいないが、もういいだろうと思い始めた頃、あたりが薄暗くなってきた。つい数分前まで晴れていた空には、どんよりと灰色の雲が広がっている。ひと雨きそうだ。
タクシーでも拾うかと考えた矢先、まぶたに冷たいものが触れたかと思えば大粒の雨が降ってきた。道ゆく人々が次々に傘を広げ始め、傘を持たないものは小走りでどこかへ消える。予想よりも強く降り出した雨に驚いている暇もなく、景仁も近くの建物へ逃げ込んだ。
階段を上がり、二階にある古い喫茶店に入る。いらっしゃいませ、とにこやかに挨拶する美人店員に軽く会釈すると、客もまばらな狭い店内に薄い外光をもたらす一面窓が目に入った。その窓際にある、四人掛けテーブル席に通してもらうことにした。
椅子に腰かけながらブレンドコーヒーを注文する。笑顔で応じた店員が去ったところで、ふう、と小さな吐息がこぼれた。
高い湿度の中を歩いて汗をかいたうえに雨に濡れ、なんだかどっと疲れた気がする。せっかくだからゆっくり休んでから帰ろうと思った。
二十四時間営業の店内には、日中には似合わない艶やかなジャズボーカルがひかえめに流れている。場所柄と平日の午前中ということもあり、客は一人で新聞を読んでいるくたびれた老人と、仕事帰りのホストとおぼしき三人組だけだ。
特に騒がしいこともなく、ゆったりとした時間が流れていった。

