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琥珀色に染まるとき
第4章 虚しい戯れのあとは

 晴れ間はどこへ行ったのか、外はすっかり大雨だ。肩をすぼめて傘におさまり足早に歩き去る人々を、コーヒーを飲みながらガラス越しにぼんやりと見下ろす。
 そこに、傘を持たずに走ってくる女の姿が見えた。見覚えのある長い暗髪。どこへ向かっているのだろうと目で追うと、女は景仁が見下ろしている真下に駆けこんだ。

 しばらくすると、意外にも女は喫茶店に現れた。まさかこんなところで再会するとは……。散々思い出そうとしていた顔が、すぐそこにある。正夢を見ているような不思議な感覚に陥る。
 お好きな席へどうぞ、と店員から声をかけられたのだろう。女が店内を見渡す。不意に、目が合った――。
 一瞬ほかの席に移った女の視線は、なにかを思い出したようにこちらに戻された。どうやら記憶の中のバーテンダーと一致したらしい。景仁が優しく微笑んでみせると、女は導かれるように歩いてきた。

 日中に見る涼子は、薄暗い照明の中にいるときよりも血色がよく、爽やかに見える。
 胸まであるゆるりとしたウェーブヘアを、片手で後ろにはらいながら近づいてくる。暗がりでは黒に見えたその髪色は、たしかに限りなく黒に近いのだが、日に当たると深みのあるネイビーに染められているのがわかった。

「涼子さん、こんにちは」
「こんにちは……西嶋さん。昨日はありがとうございました」

 決まりきった挨拶を交わしたあとも、涼子はテーブルの横で申し訳なさそうに立ちつくしている。顔見知りだがまったく親しくない人間に会ってしまい、社交辞令で声をかけたはいいが、今さらほかの席に行けなくなってしまったという感じだ。

「よろしかったら、ここどうぞ」
「でも、ご迷惑では……」
「全然。一人で雨を眺めているのにも飽きて、話し相手が欲しいと思っていたところです」

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