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琥珀色に染まるとき
第25章 Clayのもとへ還る心

肩が出るタイプのドレスなので、ブラジャーの肩ひもを外してから身体を通した。鏡の中の自分と向き合う。そこに映るのは、着慣れない色のワンピースに照れる女。
意を決して試着室の扉を開けると、待っていた西嶋は満足そうに口角を上げた。
「ほらな、やっぱり似合う」
「自分ではよくわからないわ」
「でも気に入ってるだろ」
たしかに気分は高揚している。ぎこちなく頷いてみせると、優しく微笑んだ彼は店員になにやら小声で話しかけた。意味深な笑みを浮かべた彼女は、その場を離れていった。
「なんて言ったの?」
「この服に合う靴も見せてくれって頼んだんだよ」
「えっ、勝手にそんなこと頼まないで」
「まあいいじゃないか。もう少しだけ辛抱してくれ」
「もう、あなたって本当に……」
物腰柔らかなわりに少し強引なところがある、と言いかけて、やめた。案外彼のそういう部分が好きなのだと自覚しているからだ。
しばらくして戻ってきた店員が手にしていたのは、青とも緑とも言えない、深いアトランティックブルーの上品なハイヒール。
礼を言い、足元に置かれたそれにゆっくりと右足を入れる。左も同じように収めれば、自ずと背筋が伸び、その姿を鏡で見ると心が躍った。
「うん、綺麗だ。That’ s so you」
笑う彼に続いて店員も、“よくお似合いですよ”といったようなことを口にしている。ふだんと違う服に挑戦して、そんなふうに褒められるのは純粋に嬉しいものだ。
それから、着せ替え人形のように何着か試し、着替えを終えて試着室を出ると、すでに彼の左手には店のブランド名が刻まれた紙袋が提げられていた。大きさの違う二つの袋……。
「ねえ、それ」
「行こうか」
微笑む彼に促され、袋の中身を確認することなく出口へ向かう。付き添ってくれた女性店員に見送られ、店をあとにした。

