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琥珀色に染まるとき
第4章 虚しい戯れのあとは

 窓の外にちらりと目をやった涼子は、諦めたように視線を戻すと静かに微笑み、狭い四角テーブルを挟んだ向かいの席に腰かけた。注文を取りにきた店員にブレンドを頼むと、バッグや髪についた水滴をハンカチで優しく拭い始める。
 やはりその仕草はどこか色っぽい。すっきりと整った顔立ちには際立った華やかさはないものの、品がよく、現代版日本美人という言葉がしっくりくる。首元がざっくりと開いた白シャツからは、昨夜はほとんど襟に隠されていた白い首と鎖骨があらわになっている。

 ふと、その首筋に噛みつきたい衝動に駆られた――が、くだらない思考をすぐに打ち消す。いったいなにを考えているのだと心の中で自分を嘲笑しながらも、その綺麗なフォルムに見入ってしまう。
 視線に気づいて顔を上げた涼子が、ぎこちなく微笑んだ。

「傘を忘れて、けっこう濡れてしまいました……」

 彼女の言ったとおり、薄い生地のシャツがかすかに透けている。よからぬ思考がよみがえりそうになるが、頭の隅に追いやった。

「これ、よろしかったら」

 スラックスの尻ポケットからハンカチを抜き、差し出すも、すぐに思い直す。

「……尻に敷いていたもので拭くのは抵抗があるか」

 独り言を呟きながらハンカチを引っこめたところで、ふだんの話し方が出てしまったことに気づき、景仁は口を閉ざした。
 涼子は驚いた様子で一瞬固まったが、次の瞬間、ふふっと静かに噴き出した。昨夜も一度、彼女はそんなふうに品よく笑った。

「そんなことありません。ご親切にありがとうございます」
「ああ、いえいえ……」

 意外にも穏やかな表情で答える涼子にまた見惚れてしまい、それだけ返すのがやっとだ。

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