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琥珀色に染まるとき
第4章 虚しい戯れのあとは

 涼子のバッグから鈍い機械音がした。中から携帯電話を取り出した彼女は、椅子から立ち上がる。

「すみません。ちょっと電話を」

 言い残し、トイレのほうに向かうその後ろ姿を、行き場を失ったハンカチを仕舞いながら見送る。
 ゆったりとしたシンプルな白シャツ、アンクル丈のタイトな黒パンツ、黒いハイヒール、という上品な着こなし。モノトーンで都会的ではあるが、昨夜のスーツ姿よりはいくらかラフな印象を受ける。スカートではなく、パンツスタイルがお好みらしい。

 せっかくの休みだろうに、涼子はなぜこんなところに来たのだろうか。誰かとの待ち合わせにしては場所が怪しすぎる。それとも、私服で警護の仕事をすることもあるのだろうか。
 それにしても、ボディーガードとして働くその姿はまったく想像がつかない。佐伯の隣で社長秘書でもやっていたほうが合っている気がする。見る限り、華奢ではないが十分細身だし、とても腕力があるようには思えない。もし危険な目に遭ったらどう対処するのだろう。
 ボディーガードという職業自体、謎に包まれている。その事実が余計に涼子を謎めいた存在に思わせるのだろう。

 景仁は、腕を組んで向かいの空席を眺めた。なんだか無性にやるせない気分になる。絶えず思考を巡らすのは、今も誰かと電話をしている、よくも知らない女のことばかりなのだ。

 しばらくして戻ってきた涼子が、自身のほうにもコーヒーが届いていることに気づいた。湯気の立つカップに目を落としながら席についた彼女に、景仁は一つ話題を振ることにした。

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