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琥珀色に染まるとき
第26章 琥珀色に染まるとき
“BAR Clay”
それが彼の名だと知った今、この扉の向こうに広がる青暗い空間は彼そのものなのだと実感する。掛けられているドアプレートには“CLOSED”の下に小さく“for a private party”と刻まれており、それが自分のために作られたものだと思うと無性にこそばゆくなった。
真鍮製の取っ手を引いて待つ藤堂に礼を言い、店の中に入った。
「あ、やっと来た。涼子さん、結婚おめでとう」
その明るい声の主が歩み寄ってきたが、近くに来るまで誰なのかわからなかった。
「……響くん? どうしたの、その髪」
目の前にある甘いマスクはたしかに彼のそれである。しかし、トレードマークとも言えるブロンドの髪は黒く染め直され、短く整えられている。
これまでのような高級ブランド物ではないものの、上品なスーツ姿は変わらない。その好青年ぶりに驚いて凝視していると、響は不服そうに言った。
「やっぱり涼子さんもみんなと同じ反応するんだね。そんなに変?」
「ううん、よく似合ってるわ。でもお仕事は……お客さんがびっくりするでしょう?」
「大丈夫。辞めたから」
「え?」
「ホスト辞めたの。今は普通の会社員。ずっと付き合ってた彼女がいてさ。その子と結婚すんの、俺」
「まあ! それはおめでとう」
「ありがとう。マスターと涼子さんのお祝いなのに俺が祝ってもらうみたいだね」
人懐こい笑みを浮かべる響に、涼子の一歩後ろで静かに佇んでいた藤堂が席に向かいながら言った。
「やっと落ちつく気になったか。だが昼の仕事もお前が思っているほど楽じゃないぞ」
「わかってるよ。慎也さんも早く落ち着いたほうがいいんじゃない? いつまで独身貴族気取ってんの」