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琥珀色に染まるとき
第26章 琥珀色に染まるとき

 カウンター席にいる全員が、息の合った二人の動きに魅了された。

「やっぱ絵になるカップルだなあ」

 奥の壁際の席でぼそりと呟いた響に、佐伯が同調する。

「本当。妬けちゃうわ。だから変な噂ばかり立つのよね」
「そうそう。最近はゲイじゃなくてバイの噂が流れてるらしいよ」
「あらやだ、ますますライバルが増えるわね。涼子ちゃん」
「それは困りましたね」

 佐伯たちに合わせて冗談混じりに答えると、隣で父が咳きこんだ。ちょうどそのとき、目の前にホットグラスが差し出された。しかめ面の藤堂が、その表情には不釣り合いな口調で言う。

「柚子茶でございます」
「ふふ、ありがとうございます」

 底に沈んだ柚子の皮で、グラスは淡い黄色に色づいている。西嶋が数日前から蜂蜜で漬けておいたものだろう。彼は近頃、そうしていろいろと工夫して作ってくれる。
 一口飲めば、柚子の優しい香り、穏やかな酸味と蜂蜜の甘さが温かく沁みわたる。ほっと息を吐いたのと同時に店の扉が開く音が聞こえ、男二人の声がした。

「こんばんは。遅くなりました!」
「お、涼子さん来てるな」

 視線を移すと、先に入店してきた城戸の後ろにはタツが顔を覗かせている。目が合ったとたんに得意のウインクを投げられ、あまりの自然さについ笑ってしまった。
 自身の背後でタツが涼子に向けてしていることなど知る由もない城戸は、怪訝な表情を浮かべて歩み寄ってくる。お疲れ様、と声をかけると、手にしているグラスを覗きこまれた。

「まさかそれ酒じゃねぇよな」
「これ? 柚子茶よ」
「いや、なんか急に笑い出すからうっかりウイスキーでも飲んでるんじゃないかと思って」
「……飲まないわよ」

 呆れた顔を見せれば、だよな、と言って彼は歯を見せて笑う。涼子の父と響に笑顔で声をかけ、父の左隣に腰かけた。

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