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琥珀色に染まるとき
第26章 琥珀色に染まるとき
「……いろいろな家族があるものだな」
ぼそりと言ったのは、父だった。こちらを向くわけでもなく、手元のグラスを見下ろしたまま彼は続ける。
「お前にも弟か妹を、と思ってはいたんだがね」
「だから再婚したの?」
「そういうことになるな。結局それもだめになってしまったが」
「私を、独りにしないために……」
「そうだよ」
意外にもすぐに返ってきた肯定の言葉。胸を鷲掴みにされたような感覚に襲われ、まぶたの奥が熱くなった。
「……私は、お父さんとお母さんと一緒にいたかった。それだけでよかったのよ」
どうしようもなく遠回しな方法でしか愛情を示すことができなかった父に、娘として言えるのはそれだけだった。
哀愁漂うピアノジャズの音色だけが空間を支配し、より静寂を感じさせる。そこにいる全員が、父の言葉を待った。
「涼子。お前を大事に思っていた。今でも、とても……」
沈黙を破ったそのかすれ声は、うわべだけの懺悔ではなく、真の胸の内を明かした。なにか返さなければと思うが、震える唇はふさわしい言葉を吐き出せない。
そこでようやくこちらに向けられた、父の視線。
「いいわけはできない。お前を独りにさせたのは私だ」
憂いを帯びた優しげなまなざしが、涼子の腹に落とされた。
「その子には寂しい思いをさせてはいけない。涼子が今までしてほしかったことを、目一杯その子にしてあげなさい」
やはり言葉が見つからず、さまよわせた視線はカウンターの向こうにいる男にたどりついた。そこには、愛おしい夫の優しい微笑みがあった。
寂しい思いなどさせるものか、と涼子は心の中で誓った。終わりの見えない孤独と向き合ってきた自分なら、永遠に失うことの哀しみを知っている彼なら、愛する者を独りにすることがどれほど残酷なことかわかる。