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琥珀色に染まるとき
第26章 琥珀色に染まるとき
視界の中にいる西嶋がにじんでいく。まばたきをすれば、涙が頬を伝った。それをすばやく指で拭い、父に向き直る。
涼子は、父に笑ってみせた。再び溢れ出した涙はそのままに、何度も大きく頷いてみせた。
父は一瞬だけ寂しげに顔を歪めたあと、瞳を潤ませながら柔らかく微笑んだ。その穏やかな笑顔を、涼子は遠い昔に見たことがあるような気がした。それを感じ取ったかのように、父は懐かしそうに目を細め、昔を語る。
「初めてお前をこの腕に抱いたときのことは、今でもよく覚えている。小さくて、だがしっかりと重みを感じて、温かかった。なんて可愛いんだろう、この子は俺の子なんだと、無性にそんな気持ちが湧き上がったよ。お前は、私が無条件に愛すことができた唯一の存在だ」
「……そんな気持ち、わからなかった」
「そうだな。すまない。お前の母さんにも伝わっていなかっただろう」
「お父さん、飲みすぎよ……」
「まだ一杯目だ」
笑いながらゆっくりとグラスを揺らす父。彼が見つめる琥珀色の液体には、なにが映し出されているのだろう。
これからも彼は自らの過去を悔いながら生きていくのかもしれない。しかし、かすかに口角を上げたその横顔は、紛れもなく、これから訪れるであろう娘の幸福を見据える父親のものだった。
感傷に浸る心を引き上げてくれたのは、西嶋の優しい声だった。
「さあ。あらためて乾杯しましょう」