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琥珀色に染まるとき
第26章 琥珀色に染まるとき
「あはは。オッサン、嫉妬してるよ」
「え、嫉妬? なんで?」
仲よさげに話しながら店を出ていく響と城戸を見送ると、最後に父が残った。今夜は一人でホテルに泊まると言うので、明日の昼にあらためて三人で食事する約束をした。
「じゃあ景仁くん、涼子を頼むよ。あまり遅くならないようにな」
「はい。お父さんも気をつけてください」
「うむ。美味かったよ、クレイゲラキ。また飲ませてくれ」
「ぜひ」
「じゃあまた明日」
「お父さん、おやすみなさい」
涼子が声をかけると、おやすみ、と優しい返事をした父は扉を開けて出ていく。その大きな背中を見ながら、父は今幸せだろうかと涼子はぼんやり思った。
扉が完全に閉まると、人の声がしなくなった店内は静けさに包まれた。
「片づけ手伝うわ」
「いいから座ってろ。疲れただろ」
腰を押され、促されるままスツールに座ると、両肩を掴んできた大きな手がゆったりと肩揉みを始めた。絶妙な力加減にじわじわと解されていく。
心地よさに目を閉じれば、視覚にかわり聴覚が冴え、ひかえめに流れるピアノ、ドラムスとウッドベースの音の中で、背後に西嶋のかすかな息遣いを感じる。
骨張ったその左手に自らの手を重ねてみると、彼の長い薬指でさりげなく存在感を示すリングに触れた。それを撫でるように指を絡ませる。会話もなく、顔を見ることもなく、ただ指先で遊ぶ。
しばらくして、涼子は指弄りをやめ、目を開けた。
「父が飲んでたの、クレイゲラキだったのね」
「ああ。勧めてみたら気に入ってくれてな」
「ふうん」
「最初に出したカリラも好きみたいだったし、お前と味覚が似てるよ。さすが親子」
「え、最初? ……やっぱり一杯目なんて嘘だったのね」
「わかりやすい嘘だったよな。お前そっくり」
「もう……」
後ろで低い笑い声がした。