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琥珀色に染まるとき
第26章 琥珀色に染まるとき
「さっき藤堂から聞いたよ。新人が入るんだって? しかも女性の」
「うん。とてもしっかりした子よ」
このたび、S警護事務所では涼子に次いで二人目の女性警護員候補として、二十一歳の女性が採用された。警護専門学校で二年間ボディーガードについて学んだのち、ストーカー対策課に配属される予定で、今後の活躍が期待される貴重な人材だ。
「気の毒だな。真面目女と堅物男の下で働くなんて」
「失礼ね」
肩揉みを続ける彼の手の甲をつねると、再び小さな笑い声が降った。
「お前に似ているらしいな、その子」
「藤堂さんがそう言ったの?」
「ああ」
「ふうん」
相づちをうちながら彼女と初めて面談したときのことを思い出し、そうかもしれない、と思った。
まだ若いが強い信念を持った女性で、涼子は彼女の深い瞳の中にかつての自分の面影を感じた。分厚い雨雲のごとく自身を覆いつくそうとする過去を必死にふりはらうように、依頼人の警護という業務をただひたすらに遂行していた頃の孤独な自分を。
「……私が動けるうちにしっかり教えこまないと」
「無理するなよ」
心配そうな声。振り向くより先に、後ろから抱きしめられる。大丈夫よ、と囁き、そのたくましい腕をなだめるように優しくさすった。
涼子は、ボディーガードを志した頃の自分を思い出す。なにを信じて生きていけばいいのかわからなくなり、自分にはもうなにも残っていないと絶望していたあの頃。
かろうじて残された、“自分と同じ誰かのために”という心の叫びだけを支えに走り続けた――あれから十一年経ったのだ。
それだけの年月では、なにかを劇的に変えることはできなかった。過去と向き合い、悩み、葛藤を繰り返した末にたどりついたのは、必要な変化を取り入れながらも、今まで自分を支えてきた信念を貫くことだった。それが新たな道を拓く重要な一歩になると、涼子は信じている。