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琥珀色に染まるとき
第26章 琥珀色に染まるとき
「誰かを護りたいと思う気持ちは、過去に縛られていた私の自己満足なのかもしれない。でも、きっとその気持ちは自分の大切な人を救い、誰かの大切な人を救う。その信念に自信が持てるようになるまで、自分の選んだ道を進んでいかなくちゃ」
そう教えてくれた、かけがえのない人々との縁を思い返しながら、涼子は決意を口にした。あの頃と明確に違うのは、人を愛し、幸せを求める心を取り戻したことだ。それが今の自分の原動力となっている。
神妙に俯いていると、腕をといた彼が隣の椅子に腰かけた。
「これから、お前のような女性ボディーガードが必要とされる時代になる。ただ強いだけの用心棒ではなく、人の心に寄り添えるボディーガードだ。お前にしかできないやり方で人を護れ。その働きは次の世代に繋がっていくはずだ。お前自身がそう信じて疑うな」
その優しい微笑みに隠された西嶋の決意を感じ取り、涼子は椅子を降りて彼の大きな身体に腕を回した。耳元に唇を寄せ、想いを囁く。
「あなたが私を信じてくれて、そばにいてくれるから、私は自分を信じることができるの」
ありがとう、と言って抱きしめれば、彼はなにも言わずに力強く抱き返してくれた。
耳をなぞる温かな吐息を感じていると、店内に流れていた軽快なピアノジャズが、しっとりとした音色に変わった。
メロディーを奏でるピアノの音に合わせて、彼が英語で歌い始める。初めて聴く彼の歌声は、優しく鼓膜をくすぐり、語りかけるような低音が心地よかった。
ピアノの繊細で美しい旋律と、物哀しくも深い愛情を感じさせる歌詞に、自然とこみ上げてくる涙が視界をにじませる。抱き合ったまま、その声に耳を傾けた。
曲が終わると、一瞬の沈黙を挟んで次の曲が流れ始めた。涼子は身体を離し、微笑する西嶋を見つめた。彼が口ずさんだ詩が、頭の中を支配している。