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琥珀色に染まるとき
第4章 虚しい戯れのあとは

「ホットがお好きで?」
「あ、はい。コーヒーはできるだけ季節問わず、温かいのが飲みたくて」
「ああ、同感です。それにブラックでね」

 そう付け足してみると、警戒心を孕んだ深い観察眼でじっと見つめられた。

「……西嶋さんもですか?」
「ええ、温かいブラックコーヒーが一番好きですよ。決して通ぶっているわけではなくてね」

 ひっそりと笑った涼子は、ソーサーに乗せられたカップを手に取った。赤く色づいた唇に運び、香りを愉しむように一口含む。
 飲んだあとにさりげなく、その細い指でカップのふちを拭う仕草が景仁の心をくすぐった。もう少し話していたいと思った。

「涼子さんがブラックとホットにこだわるのはどうして?」
「それは、そうですね……」
「香りですか」

 言いよどんだ涼子に助け舟を出してやると、刹那、その表情が固まった。しかし、目の前の男にすべてを悟られていることに気づいて諦めがついたのか、涼子は柔らかい笑みを浮かべて頷いた。
 彼女の無表情は昨夜も二度ほど見たと記憶している。いずれも佐伯に迫られているところをフォローしてやったときだ。ほんの一瞬で確信がもてなかったが、気のせいでなかったことが今証明された。

 一見クールビューティーな女だが、それは、仕事で他者からなめられたり騙されたりするのを防ぐための仮面なのかもしれない。あるいは、他人に心を読まれるのが不服なだけか。
 案外わかりやすい女なのかもしれない、と景仁は心の中でほくそ笑んだ。どちらにせよ、その皮を剥がしたいと思わせるには十分である。

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