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琥珀色に染まるとき
第26章 琥珀色に染まるとき
「……お墓の中で、愛する人が帰ってきてくれるのを待っているのね」
「自分のもとを去った子供を想い続ける親の気持ちを唄った歌だよ」
彼はそう説明してくれたが、頭に浮かぶのは、誰もいない場所で静かに佇む真耶の墓。彼女がこの世を去ったあの日から、十二年という時間が過ぎた。
西嶋が年老いて生涯を終えるそのときまで、彼女はあの冷たい石の下で、この男を待ち続けるのだろうか。
――Dead and turned to clay.
よみがえる、その言葉。
「……景仁さん」
「ん?」
「お店の名前の由来って、あなたのセカンドネームからきてるのよね」
「ああ」
「ターン・トゥ・クレイでも、クレイゲラキでもないのよね」
彼は苦笑する。
「まだそんなこと気にしてたのか」
「だって、お店の名前にはけっこう悩まされたんだもの。あなたが思っているよりずっと」
「すまん。一度言いそびれると、タイミングがな……」
その言葉に眉を寄せてみせれば、彼はなぜか愛おしげに目を細め、耳元に唇を寄せてきた。ごめん、という低く甘い囁きが脳を包みこむように響く。
「……言い方を変えてもだめ。タイミングを逃すと大変なのよ」
彼は居心地悪そうに身じろぎしたあと、短く息を吐いてから言った。
「俺一人の店だから、俺自身の名を付けた。それだけさ。ここは俺の居場所なんだよ。生きていることを実感できる場所だ。死んでしまった人が還ってくるためなんて、そんな虚しい理由があるか」
「うん……」
「でも、お前には重大な悩みの種になっていた。すまなかった」
「違うの、本当はもういいのよ、そんなこと。私こそごめんなさい……」