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琥珀色に染まるとき
第26章 琥珀色に染まるとき

「わ、私も……」

 溢れ出す涙とともに絞り出した声。だがその続きは、唇に添えられた長い人差し指に阻まれた。彼はにやり口角を上げ、頬を伝う涙を親指で拭ってくれる。

「今のは練習だよ。お前の分は本番で聞くから、それまでとっておいてくれ」
「本番?」
「いろいろ考えたんだが、向こうで式を挙げるのはどうかな」
「向こうって……スコットランド?」
「お前が嫌じゃなければ」

 彼の少し自信なさげな笑みに、涼子は首を勢いよく左右にを振った。

「嫌なわけない! 嫌なわけ……っ」

 たまらない気持ちが爆発しそうになり、その首元にすがりつくと、よかった、と安堵の声が返された。照れ隠しなのか、彼は抱き合ったままで語り始める。

「人の心は曖昧で、揺れ動くものだ。自分が選んだ道に何度も迷い、ときに自分自身の心の真偽すら見失う。でもだからといって、自分の心を放棄してはいけない。いいか、涼子。この先なにがあっても、心を捨てるなよ。この道を選んだからには、もっと素直に幸せを求めろ、大切な家族のために。誰かのために生きるとはそういうことだと俺は思う。お前自身が幸せでなければ、家族の幸せはあり得ない」

 涼子は目を閉じ、背中を撫でる彼の手のひらの感触を感じながら、耳元で丁寧に囁かれる言葉を噛みしめた。
 大切な家族のために、自分の心を保ち続ける――。新しい希望をこの身に宿したその瞬間から、自分の心はもう自分だけのものではなくなったのだ。

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