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琥珀色に染まるとき
第4章 虚しい戯れのあとは

「冷たくすると、どうしても香りは立ちにくくなりますからね。もちろんアイスコーヒーに適した豆もありますが」
「ええ。飲み方に合ったものがきっとあるんでしょうけど、私は味よりも先に香りが気になるので……」

 そこで言葉を途切れさせた涼子に、核心をつく。

「ウイスキーも?」
「……そうですね、はい。香りを愉しみたいので、ストレートで飲むか、少し加水するくらいです」

 そう答えた涼子は、なぜか終始照れくさそうだった。初めて見る表情だ。他人に私生活を晒すことに慣れていないのだろうか。

 そんな彼女に反して、景仁は愉快だった。
 ふと、昨夜の光景がよみがえる――。佐伯の隣におとなしく座った涼子は、バックバーに並ぶウイスキーボトルを念入りに観察していた。アイリッシュ、スコッチ、アメリカン、カナディアン、ジャパニーズ――種類ごとに分類されたウイスキーの中で、彼女が目を留めたのはシングルモルト・スコッチの銘柄が揃うスペースだった。
 どれを見ていたか定かではないが、“スモーキーな”風味が好みだと言っていたから、少なくともアイラモルト好きであることはまず間違いないだろう。

 香りを愉しむという涼子の嗜好は、景仁のそれと共通している。モルトウイスキー愛好家の中には、香りこそがシングルモルトの命だという人間も多い。おそらく彼女もそのマニアックな思想の持ち主であろう。

 涼子はまたコーヒーを口にすると、その小さな唇からかすかに吐息を漏らす。
 ウイスキーの香りを愉しむ姿もいつか拝めるといいが――そんなふうに思いながら、景仁は彼女の上品な仕草をぼんやりと眺めた。

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