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琥珀色に染まるとき
第5章 雨音に誘われて
第五章 雨音に誘われて
腕時計に目を落とす。針は十一時を示している。待ち合わせの時間まで、まだ二時間はある。
サンドウィッチの最後の一切れを食べ、少し早い昼食を終えると、涼子は白い湯気を上げる二杯目のコーヒーに口をつけながら向かいの空席をぼんやりと見つめた。
依頼人に指定された待ち合わせ場所を確認したとき、あのバーの近くだとすぐにわかった。しかし、あの人は朝の五時までの営業だと言っていたから、自分がこの喫茶店に着く十時頃には彼がこの近辺にいるはずがなかった。いるはずがないと、涼子は思っていた。
「おい。目が死んでるぞ」
その声に顔を上げると、癒し系の犬顔青年が訝しげにこちらを見下ろしていた。
「お疲れ様、城戸くん。ずいぶん早いわね」
Tシャツにジーンズ姿の相棒が、向かいの椅子に腰かける。
「東雲こそ。……って、なにお前、もうメシ食ったの?」
「うん」
「はえーな」
「ゆっくりコーヒーが飲みたかったのよ」
「ふうん」
さして興味なさげに相づちをうった城戸は、水を置きにきた店員にオムライスとアイスココアを注文した。店員は笑顔で応じたが、地味な女が入れ替わりで二人の男と会う図に興味をそそられたのか、一瞬こちらにわかりやすい観察眼を向けてから立ち去った。
そんなことを知る由もない城戸は、テーブルに肘をつき、窓の外の寂れた雨景色を切なげに眺めている。
ふとその筋張った太い腕を見ていると、つい三十分前までそこに座っていた別の男のそれが重なった――。