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琥珀色に染まるとき
第5章 雨音に誘われて
暑さのせいか、まくり上げられていた暗灰色のシャツの袖。そこから伸びる、ほどよく引き締まった腕。力強さ溢れる城戸のそれとは違うが、どこか色気のあるたくましさがあった。骨ばった繊細な長い指がコーヒーカップを持ち上げ、形のいい唇へと運ぶ。そのゆったりとした一連の流れを目で追うと、そのまま視線が交わった。
彼はカップから口を離し、視線を窓の外に移すと、困ったように微笑んだ。その横顔が美しかった。
意識を戻すと、城戸にまた怪訝な目で見られていた。
「お前、なんか変じゃない?」
「オムライスにココアって……子供みたいね」
「は?」
「組み合わせが」
「……俺、コーヒー苦手だからさ」
「ふうん」
城戸の真似をして返事すると、手にしているカップに苦い視線を返された。
彼がココアを頼んだのは、なにもコーヒーが苦手だからというわけではない。事務所のデスクでココアを飲むその姿はよく目撃してきたから、城戸が“自ら好んで”ココアを選んでいることは明白だ。
「やっぱり子供よ」
「ああ?」
ぽかんと口を開けて眉間にしわを寄せるその表情が滑稽で、思わず口元がゆるむ。それにつられて城戸の不機嫌顔は和らいだが、反対に今度は涼子が無表情になった。
カップをソーサーに戻すと、それはかちゃりと小さな音を立てた。
「それで、依頼人のことだけど」
「まあそう焦るなよ。とりあえずメシ食うまで待って」
「情報を再確認しておかないと」
「頭に叩きこんであるから大丈夫。それより大事なのは依頼人の心をほぐすことだろ? 東雲は笑顔の練習でもしとけよ」
爽やかに笑う癒し顔。この男の言うことも一理ある。