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琥珀色に染まるとき
第5章 雨音に誘われて

依頼人から事前に電話相談を受けたとき、事務所に直接出向くのは抵抗があると言われた。ボディーガードという職業に、無骨で怖いイメージを抱かれるのはよくあることだ。
依頼人の不安を解消するため、事務所以外での打ち合わせや、私服警護といった対応をとることも少なくない。今回の人選もその一つで、特に依頼人が女性の場合、同じ女性の警護員である涼子と、天性の人懐こさという才能を持った城戸がコンビを組んで担当することが多い。
依頼人の心をほぐすには、勝手に抱かれているイメージを払拭しなければならない。城戸の屈強そうな身体にはアンバランスすぎる、その親しみやすい笑顔が、警護を始める前からすでに依頼人の心を救うのだ。
食前に届いたアイスココアにストローを挿し、城戸はその大きな手でグラスを掴んだ。ストローに口をつけると、グラスの中身は一瞬で半分まで減る。
その吸引力に圧倒されながら、コーヒーをひかえめに飲み、涼子は依頼人のことを思った――。
堤小夜子(つつみさよこ)は、この近くのスナックに勤める二十四歳の女性だ。店の常連客からのストーカー被害を訴えている。
彼女の話はこうだ――。
半年前から、待ち伏せやつきまといなどの迷惑行為に悩まされてきたが、二ヶ月前からその頻度があきらかに増えた。恐怖を覚えて警察に相談しようと思ったが、職業柄これまでも客からストーカーまがいの嫌がらせを受けることはあったため、どうせまともに取り合ってもらえないだろうと諦めていた。徹底的に無視していれば、自然にストーカー行為はやむと思っていた。
それから一ヶ月後のこと。ホストと朝まで遊んだ帰り道をストーカーにつけ回され、ついに襲われそうになった。だが、通りすがりの女性に助けられ、危険を免れた。その際の事情聴取で初めて警察に被害を相談し、ストーカーに対する口頭警告を実施してもらった。

