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琥珀色に染まるとき
第5章 雨音に誘われて

目にいっぱいの涙をためて被害を打ち明ける女性の姿を目の当たりにし、涼子は自分の中に渦巻く激情を自覚した。そして、それを隠すようにこぶしをきつく握りしめ、耐えた。依頼人の前で感情をあらわにしてはいけない。そう自分に言い聞かせて。
そのときに城戸が女性に向けて発した言葉を、涼子は今でも覚えている。
――僕たちが全力であなたをお護りします。もういいんですよ、これ以上、自分を責めなくて。
なんの工夫もない、ストレートな言葉だった。だが、真剣な表情で告げた城戸に、女性はこらえきれなくなった涙を流しながら何度も頭を下げた。
あの瞬間、涼子もまた救われていたのだった。もう自分を責めなくていい――その言葉に。そうして気づけば、城戸は社内で最も心を許せる相棒になっていた。
それを知らない本人は、目の前で無邪気にオムライスを頬張っている。唇の下にケチャップをつけて。ちょうど顔を上げた城戸にジェスチャーでそれを教えてやると、彼はテーブルナプキンを抜き取り、口元をおおざっぱに拭った。
「なあ。今回のリスク評価、どうなると思う?」
「低くはないでしょうね」
「うん……」
城戸はそれだけ呟いて、なかなか続きを話そうとしない。
「その質問、どういう意味なの」
催促すると、予想外の言葉が返された。
「俺さ……本音言うと、お前にはなるべくリスクの低い案件を担当してほしいんだよね」
「私が女だから、頼りにならないってこと?」
「違うよ。お前は優秀だ」
「じゃあなに」
「それは……」
「ローリスクだろうがハイリスクだろうが、依頼を受ければ私はやるわよ」
めずらしく歯切れの悪い城戸にもどかしさを覚え、涼子は鋭く言い捨てた。
「……ばーか」
返された小さな呟きは、少しだけ哀しげだった。

