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琥珀色に染まるとき
第5章 雨音に誘われて

待ち合わせ時間より五分遅れて、堤小夜子は現れた。
涼子が椅子から立ち上がり会釈すると、はっとした表情を浮かべた彼女は足早にこちらに歩いてきた。真っ直ぐな長い髪、派手な印象の顔立ち、タイトなワンピースから伸びる細い脚――まるで作り物のようなその容姿に魅了され、男たちは彼女を支配する夢を見るのだろうか。
「あのときは本当にありがとうございました……っ」
そばに来るやいなや、深々と頭を下げた小夜子。見かねた城戸が明るく声をかける。
「よかったら、そいつの隣どうぞ。二対一だと面接みたいで緊張するでしょ?」
「あ、はい。ありがとうございます」
こちらに歩み寄り腰を下ろした小夜子からは、ふわりと甘い香りがした。彼女が店員にアイスティーを注文したところで、さっそく話を始める。
「あらためまして、東雲です。そちらは城戸」
「城戸悠貴です。よろしく」
「よろしくお願いします。なんか……もっと怖そうなおじさんが来ると思ってたから、ちょっと安心しました」
「そう。よかったわ」
柔らかな微笑みを返してやると、小夜子はそれよりも柔らかく、さらに煌びやかさが上乗せされた笑みをよこした。
「それで、堤さん」
「あ、よかったら明美って呼んでください」
「明美?」
「そう、源氏名。本名あんまり好きじゃないから」
「……では、明美さん。電話でお話ししてから、なにか変わったことはありましたか」
「相変わらずって感じです。仕事終わりに待ち伏せされて、あの日はちょっと脅かそうとしただけだから許してくれとか……話をしたいだけだとか……まるで付き合ってるみたいな勘違いされてるんです」
爪に綺麗なネイルがほどこされた指で長いストレートヘアをもてあそびながら、堤小夜子こと明美は、嫌悪感をにじませる声色で説明した。

