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琥珀色に染まるとき
第5章 雨音に誘われて

 そうでなくとも、涼子はプライベートを決して他人に明かさない。父親との確執を打ち明けたのは城戸にだけだが、それでも確執の原因までは話していない。
 事務所でも基本的に必要以上のことは話さないうえに無愛想なので、同僚たちもあえて首を突っ込んでこない。

 事務所に属する唯一の女性警護員ということもあり、男性警護員の間でしばしば話題にあがるのだと城戸から聞いたことがある。『男と対等にやり合っていくうちに自然と愛想がなくなってしまった』と言う者もいれば、『あいつは入社当初からああだった』と反論する者もいて、飛び交う意見は嘘か本当かわからなかったという。
 しかし、多くを語らず熱意を内に秘める性質については、満場一致で共通認識されているらしい。ありがたいのか迷惑なのかわからない話だ。

 事務所ビルの近くにあるイタリアンの店に入り、当然のように仕事の話をしながら食事を済ませ、一時間後に店を出る頃には、外を行き交う人々は傘を差していた。
 駐車場から車をとってくるから待ってろ、という城戸の親切を断り、小雨の中を二人で走った。素直に厚意に甘えられないところが自分の悪い癖だと、自覚はしている。

 車が発進してしばらく経ったとき、突然寒気を覚え、くしゃみが出た。左にハンドルを切った城戸がちらりと視線をよこす。

「大丈夫か? 風邪ひいた?」
「ううん。雨でちょっと身体が冷えただけ」
「だから待ってろって言ったのに。……ったく」

 年下の男に叱られて小さくなっていると、ふっ、と柔らかく息を吐く音がした。

「元気ないな」
「いつもどおりよ」
「お前、元気ないよな。雨の日」
「……え?」

 一瞬、なにを言われたのかわからなかった。
 城戸の横顔を窺うも、その表情は固く、目線は前方に向けられたままだ。沈黙が嫌な予感を増幅させる。

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